法話

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ただ念仏して 〜末期ガンを宣告されても、『寂しくない生き方』を過ごしたAさんの話〜

 先日、88歳のご門徒のAさんが肺ガンのため、亡くなられました。
 Aさんは、よく寺にお参りされ、お念仏をよろこんでおられた方です。10年ほど前、ご主人を亡くされ、独りぼっちに成ってしまいました。特別養護老人ホームへ入所されてからも、時々訪ねてお話をしていました。この老人ホームは、毎月法話会がありAさんは必ず、聞きに出てきてくれました。亡くなられる3ヶ月くらいまでは、とても元気そうでした。
 突然施設の指導員さんから電話があり、「Aさんが、ガンで入院されましたので一度顔を出してください」と連絡がありました。早速病院へお見舞いに行くと、Aさんは二人部屋で点滴を受けていました。30分あまりお話をさせていただきました。
 「食事が思うように取れないので、点滴をしていただいています。これが取れればまた、ホームへ戻れるのに」と、病院を嫌っていました。その時Aさんの気になった事がありました「毎日お念仏して、仏さまに早く治してくださいとお願いしています」という言葉でした。今までは元気であったため、病気を素直に受け入れられないのだと思いました。私はそれとなく「いのちの尊さとはかなさ」について話、また「お念仏は、お願いするのではなく、ただ南無阿弥陀仏と称え、仏さまにお礼をするのですよ」と話しました。
 暫くしてAさんは老人ホームへ戻ってきました。でも病気が良くなったのではなく、末期のガンであることに変わりはありません。それからのAさん落ち着きを取り戻し、病気を治して欲しい等とは一切言わずに、いつもお念仏を喜んでいました。ある時「寂しいですか」と尋ねると「寂しくありません。先日もお念仏を称えていたら、枕元に仏さまが来てくださいました」いつも仏さまと一緒で安心していました。
 最後の数日はお会いすることが出来ませんでしたが、きっとお念仏を喜びながら、お浄土へ旅立たれたと思います。生死無常です。普段より生と死について語り、今生かされているいのちを精一杯生き抜くことが大切です。